生命は

吉野弘さんの詩です。



生命は
自分自身だけでは完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする
生命は
その中に欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうのだ



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(中略)
花が咲いている
すぐ近くまで
虻の姿をした他者が
光をまとって飛んできている


私も あるとき
誰かのための虻だったろう


あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない


(詩集「北入曾」)